はじめての命「まき」  なかむら こういち

八年間子どもができなかった家庭に
はじめての命「まき」が誕生した。
祖母が言った おめでとう。
父が言った よくがんばったね ありがとう。
母はほほえみながら まきの寝顔をみつめた。
まきが笑った。
祖母も父も母も みんな笑った。
まきがよちよち歩いた。
祖母も父も母も みんなとびあがって手をそえた。
まきがしゃべった。
祖母も父も母もみんな大声で同じ言葉をくり返した。
ある日
まきは 全身に煮え湯がかかり大やけどをした。
まきが泣いた やけどのきずがいたくて。
祖母が泣いた 孫の苦しむ姿を見て。
母が泣いた 自分のきずと感じて。
父は祈った 心にきずをのこすなと。


▼人の幸福と不幸は、表裏一体のものなのかもしれません。兵庫・淡路大震災もまた、一瞬にして、幸福な人びとを地獄におくってしまいました。
▼なぜ「まき」が「全身に煮え湯」をあびたのか、その原因は不明ですが、幼い生命が、傷ついたのです。「まき」の泣き声は、傷の痛さに耐えかねたからでしょう。祖母の涙は、孫の悲鳴が心にささったためでしょう。母の涙は、自分の肉体の一部をもぎとられた思いのためでしょう。そして、父の祈りがありました。「心にきずをのこすな」と。
▼父は、ぽつりと私に語ってくれました。「私にとって人権とは『まき』のこれからの人生です」と。この四人家族に、輝く幸せがめぐりきますように、私はそっと祈っています。
 この作品は、広島県海田教育委員会編、人権啓発冊子『いのちのかがやき』(1996年)によります。
人権読本 じんけんの詩U(明石書店)編者 今野敏彦/さし絵 美馬須美子 から

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